父を語る その1

 

 

この春、

四月半ば、

日一日と容態が

悪化していく父の枕元で、

ボクは作曲作業に追われていた。

目前に

レコーディングを控え、

半日たりとも

作業を中断できぬスケジュールの中、

父の病室に泊まり込み、

五線紙を持ち込み、

ひたすらに

無数の音符を書き綴っていた。

生前の父は

誰よりもボクの仕事を

いつも気にかけていた。

にも関わらず、

レコーディングの

スケジュールが近づくにつれ、

容態が悪化していく

不条理を嘆きながら、

ボクは作曲を続けた。

ところが、

父の枕元で

作曲している内に、

手塩にかけて育てた

息子の作曲をする姿を見ながら、

父は旅立ちたいのだろう、

と思えてきた。

「父さん、

一生懸命に作曲しているから、

ちゃんと見守っていてね。」

ボクは病床に

臥せる父へ語りかけながら、

さらに筆を走らせた。

次第に呼吸の間隔が

間延びしていく。

微かに病室で響く父の呼吸音に

耳を澄ましながら、

ボクは数々の調べを

真白い五線紙の上で奏でていった。

 

今夜から、

その時に手掛けていた音楽が

NHKスペシャル

「知られざる大英博物館」にて、

21時より

NHK総合チャンネルでオン・エアされる。

 

きっと父は

人生の幕が下りるまで、

息子が書き綴っていた調べを

心の耳で聴いていたと確信している。

 

1人でも多くの方々に、

ボク達親子の

ラスト・セッションを

ご覧頂きたく存じます。